建設業において上司のことを「親方」、部下のことを「子方」と呼びますが、それらは年齢や経験年数で決まっていません。
一般企業でもあるように、年下で入社年数も若い職人が上司として親方と呼ばれていることも多々あるのです。
本記事では、建設業の職人における親方・子方の違いや、関係性について詳しく解説します。
職人における親方と子方の関係性
職人における親方・子方の関係性ですが、単純に上司・部下の関係と考えて問題ありません。
親分や子分という関係と同じく、本当の血筋関係ではないものの、親子のように親が子の面倒をみて、子は親に付き従います。
また一般企業の上司・部下という関係との違いは、比較的距離感が密接であることでしょう。

ちなみに親方は「親父」、子方は「手元」や年齢によっては「若い衆」と呼ばれることもあります。
使い分けとしては、以下のようなイメージです。
呼称 | 使い分け | 例文 |
---|---|---|
親方・親父 | 子方が親方に対して使う | 親方!空から女の子がっ!! |
親分 | 他の職人さんが多職種の親方以外に対して使う | お前さんところの親分いるかい? |
子方 | 親方が子方を紹介するときなどに使う | こいつらがウチの子方連中です |
手元 | 作業の補助をする子方に対して使う | よし、お前今日は俺の手元をやれ |
若い衆 | 若年層の子方に対して使う | あの班みたいに若い衆が欲しいなぁ |
親方は「使う立場」、子方は「使われる立場」
建設業において親方は職人を使う立場、子方は親方に使われる立場です。
よって子方は親方に雇用されてお給料をもらっている立場であるため、子方は親方の指示に従い実働部隊として業務を遂行します。
一方で親方は子方の出面(出勤)を管理したり、工程を管理して子方を適切な場所に配置したりと、管理者の仕事をする場面も多いです。

また子方になる(職人として働く)ために、必要な資格などはとくに無いのですが、親方として働くためには取得すべき資格がありますので、次章で解説します。
親方になるために必要な資格
親方(職長)として仕事をするためには「職長・安全衛生責任者教育」と、各職種の「作業主任者資格」の2つが必要です。
まず職長・安全衛生責任者教育ですが、建設業や製造業において必要な資格で、規定の講習を受講することでとくに試験など受けずに取得できます。[注1]
ゼネコンによっては作業場所に工務店ごとの看板を設置することもあり、安全衛生責任者という欄には名前を記入しなければいけません。職種の代表者として確実に必要な資格ですので、間違いなく取得しておきましょう。
次に各職種の作業主任者資格ですが、労働安全衛生法において定められた国家資格で、該当作業の主任者として業務を遂行するために必要な資格です。
該当業務に3年以上従事した経験を持つ人、もしくは学校などで専門教育を済ませた後に2年以上の実務経験がある人が受講できる資格で、作業するうえで確実に設置しなければなりません。
職種によって作業主任者の資格名称が異なるので、職種ごとに必要な講習を受けるようにしましょう。

親方になるために必要な4つの理解ポイント
- 必要な道具や作業名など職種の全てを理解する
- 工事現場の進み方を理解する
- 多職種との関係性を理解する
- お金の動きを理解する
建設業において子方から親方へステップアップするためには、上記の4つのポイントを理解しなければなりません。
前述した資格を取得したからといって、親方にすぐなれるわけではないので注意しましょう。
以下よりそれぞれについて、筆者がやっていた型枠大工という職業を例に解説します。
必要な道具や作業名など職種の全てを理解する
まず自分の職種において必要な道具や作業の名称など、自分の職種について余すことなく全てを把握しなければいけません。
自分の仕事でまだ分からないことがあるのに親方になることはできませんので、経験を積み時間を有効活用してしっかりと覚えておきましょう。

工事現場の進み方を理解する
次に、工事現場の進み方を理解することです。ビルの場合はどういう職人が入り、どのくらいの期間で進んでいくのか。ビルでなく戸建てや、宅地造成であればどうなのかなど、工事現場というものの進み方を全て理解しなければいけません。

多職種との関係性を理解する
建設現場はひとつの職種だけで作り上げるわけではありません。土工や鳶工、鉄筋屋や内装屋など、多種多様な職人が関わっています。
そのなかで、他の職種との絡みがある作業は多く、親方はその取り合いの部分を円滑に進めるために打ち合わせや調整をしなければいけないのです。そのため親方は、自分の職種が多職種にどう関係してくるのかを漏れなく理解している必要があります。

お金の動きを理解する
子方たちに支払いをする親方にとって、お金の動きを理解することは非常に重要です。現場まで通うのに交通費はいくら必要か、現場を終わらせるのに何人工(何人分の働き)かかるかといった基本的なことはもちろん、ミスがあった場合はどのくらいの費用が引かれてしまうかといった副次的な部分まで網羅していることで、現場を効率的かつ正確に進めることができます。
「この金額で請けた仕事だから、この人数とスケジュールで進めないといけない」と判断できる能力が、親方になるためには必要なのです。

親方と子方での金銭面における違い
親方と子方における金銭面での違いですが、親方のほうが多く稼げることはもちろん、給与体系が全く異なります。
まず子方ですが、職人という仕事自体が出勤日数×日当で支払われるため、親方が付けた出面(出勤表)に従ってお給料が支払われます。平たく言うと、出勤した分しか稼げないということです。
一方で親方は、請負金額-諸経費や支払い金額で残った金額がお給料となります。ミスをせずに効率的に、かつ経費も少なく済めばそれだけ手元に残るお金は多くなるので、上手くやった分だけ多く儲けられる形態だといえます。
子方であれば日当1~2万円程度であるため月収は25~50万円ほどですが、親方の場合月収100万円以上稼ぐことも可能です。
親方と子方での作業面における違い
親方は資材を搬出入するスケジュールや多職種との調整、材料の拾い出しなどの段取り仕事を主におこないます。
子方が迷いなく円滑に作業が出来るように、指示出しをする監督のイメージです。もちろん、深い知識が無いと作業を円滑に進めることはできないので、なんでもできるうえでたどり着く到達点の作業だといえます。
対して子方は、割り振られた仕事を指示通りに完遂することがメインです。もちろん、子方の中でお給料を上げるためには言われたことだけでなく、自分で考えて動かなければならないので、勉強を欠かさないようにしましょう。
親方と子方での責任における違い
親方と子方では、業務における責任も違います。やはり請負契約に近い親方のほうが責任は大きく、仕事で失敗をするとそのまま自分の所得に大きく影響してきます。

対して子方は責任の面ではかなり気楽です。例えば工期に遅れを出した場合も、それはコントロールできなかった親方の責任であるため、たとえ個人の職人に責があった場合でも、よほど悪質でない限り個人が糾弾されることはありません。
金銭的にも、やった分しかもらえない=やった分は絶対に貰えるということなので、お給料が無くなるというリスクも無いのです。

職人として子方から親方を目指そう
職人と親方の違いを解説しましたが、結果としては親方は子方を使って現場を進める仕事で、責任は大きいものの大きく稼げます。対して子方は親方の指示に従い、働いた分だけを確実に貰える形態であるため、親方と子方は人によって向き不向きがあるでしょう。
ただ職人として成功したいならば、現場をコントロールして大きい金額を稼げる親方を目指すべきです。
少しでも早く親方になれるように、日々の研鑽や勉強を欠かさないようにしましょう。