昔から職人は、「きつい」「汚い」「危険」が揃った3Kの仕事だといわれてきました。
肉体労働や高所作業などあって実際にそのとおりなのですが、職人の仕事を辛いと感じるにはそれら以外にも理由があります。
筆者は数年間型枠大工という職人であったために、現場仕事と職人の辛い部分を熟知しています。
結論として職人は確かに辛い仕事ですが、辛いだけのしごとではありません。
本記事で職人の仕事の辛い部分、ならびに辛くない部分を徹底紹介します。
【意外な真実】仕事の辛さよりも人間関係が深刻な悩み
意外な事実ですが、職人にとって何よりも辛いのは人間関係です。
現場の職人といえば多くの人が、豪快でサッパリした人を思い浮かべるでしょう。もしくは頑固ながらも男らしい、頼りがいのある人など・・・。
ですが実際はそんなことなく、むしろ子供っぽい人や女々しい人などが多く存在します。
職人は誰でもなれてしまう分、一般企業に比べて性格・人格に難アリな方が多いのです。
一人ひとりの個性が強いため人間関係も面倒で、実際に筆者の周囲には人間関係が拗れて辞めていく人も多くいました。
筆者が型枠大工をしていた数年もの間、身近な職人が30人ほどが辞めていきましたが、上のイラストの通りそのうちの10人ほどが人間関係を理由に辞めていったのです。
実際に仕事がキツくて辞める人は少なく、むしろ誰かしらへの借金によって飛ぶ人の方が多いくらいでした。
職人生活において何よりも辛いのは人間関係だと覚えておきましょう。
職人が辛い仕事だと言われる15の理由
もちろん前述した人間関係以外にも、職人をやってて辛いと感じる瞬間は多くあります。
以下より、職人が辛い仕事だと言われる15の理由を紹介します。
やはり過酷な肉体労働
やはり肉体労働であるため、身体的負担はデスクワークと比べ物になりません。
以下表をご覧下さい。
型枠大工 | ・1,800のパネル15kg ・サポート12kg |
鳶工 | ・1,500のアンチ 13kg ・1,200の建枠 18kg |
鉄筋工 | D13鉄筋10本 20kg |
土工 | ネコ1杯の生コン 30kg |
一部の職人がよく扱う資材の重量を抜粋しましたが、基本的にはどれも10kgを超えています。
これらを持って作業場を何往復もすることはザラにありますし、担いだまま階段を登ることだって珍しくありません。
運搬作業ひとつとってもこの過酷さなので、職人=肉体労働で辛いというのは間違いないでしょう。
工具や作業着など出費が激しい
日当がそこそこ高い職人ですが、贅沢ができるわけではありません。
むしろ工具や作業着は毎日の作業のなかで消耗し、定期的に買い替える必要があるため、結構出費がかさむのです。
安全靴 | 2,000〜10,000円 |
作業着 | 2,000〜10,000円 |
工具 | 1,000〜5,000円 |
電動工具 | 10,000〜十数万円 |
上記表は大まかな金額帯ですが、少なくとも2ヶ月に1回はどれかしらを購入するでしょう。
これらに加えて、コンビニ飯や酒代などの飲食費もそこそこかかるため、職人は出費が激しくお金も貯まりづらいのです。
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天気・気候の影響をモロに受ける
内装関係の職人でない限り、天気・気候の影響をモロに受けてしまう点も辛いです。
夏は暑く全身汗でぐっしょりと濡れますし、冬は寒すぎて指の感覚が無くなります。
筆者は工期に追われている状況だと、台風の日でもレインコートを着て仕事をしていました。
また塗装屋など湿気によって、屋内の塗装ですら出来ずに休みになることも多いです。
一般企業であればそもそも屋内作業ですし、酷い台風の日なども自宅でテレワークに切り替えられます。
そういった逃げ道がなくどうしても天候の影響を受けてしまうのは、職人の辛い部分でしょう。
朝は早く夜は遅い
筆者は型枠大工だった時代朝4時に起きて夜11時に寝ていました。それを週6です。
俗に言うブラック企業に勤めている方からすると、5時間も寝られれば十分かもしれません。
ですが職人の場合、この生活リズムに高所での危険作業や肉体労働、通勤の長距離運転などがセットになっています。
早寝遅起き+αを週に6回行うのですから、辛いことは間違いないでしょう。
日曜日以外は基本的に出勤
職人の休みは基本日曜日のみです。
土曜や祝日、ゴールデンウィークなども全て仕事をしています。
また工期に余裕がなければ、貴重な日曜日が仕事になることもしばしば。
また、その日曜日も髪を切ったり買い物をしたりなど、さまざまな用事で潰れてしまってゆっくり休めません。
作業量に対する休みの少なさは、他職種に比べて辛いポイントでしょう。
職人というだけで偏見を持たれる
「職人の割には〜」「職人なのに〜」など、職人というだけで偏見をもたれることも多いです。
筆者が実際に経験したものとしては、知り合いからの「職人の割に真面目だね」という発言が挙げられます。
現場の職人=低学歴・不良といった悪いイメージを持っている方が多いという点も、職人をしていて辛いと感じる部分です。
同級生との格差に悩むことも多い
10代〜20代半ばくらいであれば、下手な社会人よりも職人の方が高収入です。
ですが30手前になってくると、一般企業に勤務する同世代にお給料の額で負けることも増えて、休みの多さや福利厚生など好条件が羨ましくなります。
実際に筆者も、同窓会で友達の仕事の話を聞いて、「ちゃんと勉強して普通の会社に入ればよかったな」と後悔したことは数多いです。
時間が経つにつれて、同級生との格差を感じやすい職業であるというのも、職人の辛い部分でしょう。
職種による「現場内カースト」
これは職人によりますが、同じ現場内に集う職人同士でもカーストが存在しており、下位に扱われている職種であれば不快な思いをすることも多いです。
具体的には、以下イラストのようなカーストが存在しています。
昔から仕事をしていて自分たちが最強であると身に染みている職人は、未だに設備屋さんや土工さんに強い態度をとります。
「現場作業員」という同じ立場でありながら、そのような思考を持った人もいるというのも嫌なポイントですね。
重大な怪我をする・怪我をさせるリスクがある
頭上を通過する資材や、そこらを行き交う重機など、現場には多くの危険が潜んでいます。
そのように現場仕事は重大な怪我をするリスク、ならびに怪我をさせてしまうリスクがあるのです。
実際に、厚生労働省が調査した平成30年の労働災害発生状況によると、労働災害による死亡事故のうち1/3が建設業で起こっています。
死亡事故でなくとも打撲や裂傷、ぎっくり腰のような日常生活に影響がでるものなど、危険はさまざまです。
怪我や故障のリスクが高いのは、間違いなく辛い点であるといえます。
アウトローが集まりやすい
職人になるために特別な資格や入社試験は必要ありません。
よって不良をはじめ、犯罪歴のある人でも容易に始められるので、一般企業に就職できないような後暗い人も多く集まります。
気性の荒い人もやはり多いので、怒号や喧嘩は日常茶飯事です。
そういったアウトローな人が集まりやすいという点も、人によっては辛いと感じるでしょう。
「若い衆」を脱却するまで時間がかかる
一般企業であれば1年働くと後輩が入ってきて、2年目から「先輩」という立場になります。
ですが職人の場合、そのように定期的に新人が入社することはありません。
よって1〜3年程度の勤続年数、もしくは30歳未満は等しく「若い衆」扱いされます。
若い衆=力仕事や運転手を任されますし、パシリに使われることも多いでしょう。
そのように新人や若手と呼ばれる下積み期間が長いのも、職人の特徴のひとつです。
車通勤により事故のリスクが高い
職人は、多くの工具を積み込んだハイエースや軽バンを運転して、現場に向かいます。
そして朝集合する工務店の事務所や現場が、自宅から近いなんて滅多にありません。
よって他の職種と比較して運転の時間も長いですし、車通勤の頻度も多いということになります。
厚生労働省が調査した労働災害発生状況によると、交通事故での死亡は墜落・転落に次いで多いです。
運転時間と頻度が多いとその分、死亡事故につながる事故を起こす、また最悪の場合誰かを巻き込んでしまうリスクが高まるということです。
電車通勤の人と比べて、毎日そのプレッシャーを背負わなければならないのは、辛いところでしょう。
必要な資格が多く勉強・講習の手間が多い
業務を行ううえで、資格や勉強を必要とするのは職人も同じです。
むしろ重機の運転やクレーンの操縦など、一般企業の社員よりも多い資格・免許が必要となるでしょう。
そのため資格や免許を取得するための勉強の手間が多いという点も、職人の辛い部分として挙げられます。
仕事が無い=給料が無い
職人は「日給月給」と呼ばれる、日当×働いた日数=月給となる給与形態です。
働いた日数分だけ稼げると言えば聞こえは良いですが、裏を返せば働いた分しか貰えないと考えられます。
実際に、仕事が暇な時は自動的に休みになり、その月の給料が少なくなるなんてことはザラにあります。
一般企業であれば、余程のことがない限り仕事が無くなるなんてことはありません。
ですが現場仕事は、大雨というだけで危険を避けるため休みにすることもあります。
また2020年4月、コロナウイルス感染拡大防止のために大手ゼネコンが現場を500ヶ所閉所しました。
出典:「緊急事態宣言」の対象地域拡大を受けた当社の対応について|清水建設株式会社
このように、職人は働いた分しかお金が貰えない割に、天気や流行病によって休みが出来やすいという特徴があるのです。
税金や保険関係の自己処理
2020年9月30日、国土交通省が策定した「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」によって、社会保険に未加入である企業や職人は現場に入場できなくなりました。
出典:社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン|国土交通省
ですが個人事業主である場合や、一人親方労災保険への加入など、さまざまな抜け道を駆使して社会保険に加入していない方も多いです。
一般企業であれば、社会保険や厚生年金などが組み込まれているため、いちいちそんなことに悩む必要もありません。
また職人は、確定申告も自分で行います。実際に筆者も、申請期間に突入したら平日仕事を休んで、税務署に並び手続きをしていました。
このような税金・保険関係の手続きを逐一自力で行わなければいけないのも、職人の辛いところです。
職人が他職種に比べて辛くないところ8つ
前章に対して、職人が他職種より秀でている点もあります。
仕事の腕ひとつで成り上がりやすい
仕事の腕さえあれば、職人は成り上がりやすい職業です。
実際に筆者も高校で建築の勉強をしていて、図面を読む力が最初からあったために、2年目にして「出来るやつ」ポジションに着くことができました。
一般企業よりも露骨な実力主義であるため、仕事さえ覚えてしまえばすぐに親方を目指せるでしょう。
そして使われる立場を卒業できれば、前述した辛いところの大部分を無くせます。
成り上がりやすさという点では、職人は他職種より優れているのです。
使われる立場ならすごく気楽
上述とはまた逆に、使われる立場で定着しまうのも気楽です。
実際ベテランになると、1人工(ひとりの日当)が2万円ほどになります。月に25日働けば50万円なので、保険料や税金を払ってもそこそこの額です。
それで使われる立場ならば、工務店からの重圧や現場の段取りなどの重圧もとくにかからないため、毎日ストレスフリーで働けるでしょう。
一般企業であれば出世できず停滞していると、肩身が狭くなったりクビになったりしますが、職人の場合はそんなことないのです。
学歴社会じゃない
また職人の良いところは、学歴を全く気にしないところです。
重要なのは人柄と仕事の善し悪しのみなので、学歴でマウントをとってくるような人がいません。
そのように学歴社会ではないところも、職人という仕事の魅力的な部分でしょう。
門が広く誰でも就職しやすい
人が多ければそれだけ大きい仕事を受けられるため、工務店は基本的にいつでも人材を欲しがっています。
さらに一般企業とは異なり、素養や経歴にもこだわらないため、入口が広く就職しやすい職業なのです。
もちろん入社面接やテストも不要で、道具さえあればすぐに働き始められます。
お給料に対しての就職難易度の低さは、数ある職種のなかでも随一だと言えるでしょう。
半自動的に健康になる
早寝早起きや太陽の下での仕事は、否が応にも健康的です。
そのためデスクワークで運動をしない人よりも、肉体的・精神的に健康になります。
仕事として身体を動かして汗をかき、規則正しい生活を行えるというのは職人の良い部分です。
ガツガツやれば稼ぎやすい
辛いところとしても挙げた「日給月給」ですが、逆に寝る間も惜しんで働けばかなりの額を稼げます。
たとえば駅の改修工事など、閉鎖したあとの夜間にしか動けない現場も多いです。
昼は別の現場で夜はそこの現場と使い分けたり、日曜日も働いたりすることで、お給料はドンドンと上がります。
実際に筆者も、休日出勤や夜間の応援など1ヶ月がっつり働いて、20代前半の頃に80万円ほど稼いでいました。
ガツガツやれば稼ぎやすい職業であるという点も、職人の良いところです。
現場ごとに心機一転して飽きない
一般企業であれば、オフィス移転でもしない限り会社の場所は変わりません。
対して現場仕事は、よほど大きな現場にいない限り3〜9ヶ月ほどでコロコロと仕事場が変わるため、心機一転リフレッシュできます。
さまざまな土地で多くの人と出会えるため、その都度新鮮な気持ちを味わえるでしょう。
通勤風景などに飽きないのは、嬉しいですよね。
辞める手続きが面倒でない
ほとんどの職人は雇用契約書や入社手続きなどをしていないので、辞める時に面倒な手続きをしなくて済みます。
なにか嫌になってそのままバックれて辞める人も実際多く、「辞めやすい」という点では秀でた職業です。
ただ、辞める時の注意点などは少なからず存在しているため、そこだけは注意しましょう。
関連記事:職人を辞めたいと思う理由や感じる瞬間8選!辞め方まで徹底解説
職人は辛い!でも楽しくて気持ちの良い仕事
青空の下で風を感じながら、冗談を言い合いながら仕事ができる。
職人は確かに辛い部分もありますが、そういった楽しい部分も沢山あります。
開放的で爽やかな気持ちの良い仕事であるため、おすすめの職業です。
デスクワークとなった今も、たまに思い出して懐かしむほど良い思い出となった職業であるため、興味のある方はぜひ職人デビューしてみてください。