非木造の建造物において、多くの人が1度は聞いたことがあるであろう「鉄筋コンクリート構造」。

ここでは、その鉄筋コンクリート構造の建築物を造るのに欠かせない、鉄筋屋という職業について詳しく解説します。
鉄筋屋(鉄筋工)とは?
鉄筋屋(鉄筋工)とは、鉄筋と呼ばれる鉄の棒を組み上げる職人のことを指します。
基本的に鉄筋はコンクリート内部に埋まってしまうため、完成物をパッと見ても鉄筋の存在は確認しづらいです。ただコンクリートと組み合わせることで構造耐力を大幅に向上させるため、多くの大規模建築物において重要な役割を果たしています。
鉄筋は人間でいうところの「骨」です。コンクリートの圧縮強度と鉄筋の引張り強度を掛け合わせることで、お互いの弱点を補った強い建造物ができあがります。
その鉄筋を一定間隔で組むこと(配筋)を生業としているのが、鉄筋屋という仕事です。
鉄筋コンクリートは木造住宅の基礎にも使われているため、鉄筋屋が介入する現場は木造・非木造あわせて幅広くあります。
つまり現代の建設業において、多くの建築物の骨組みを作り構造耐力を支える最重要な職種だといえるでしょう。
鉄筋屋の仕事内容・作業の流れ
鉄筋屋の主な仕事は以下のとおりです。
- 施工図面の拾い出し(加工帳作成)
- 鉄筋の加工
- 現場での配筋
- 検査の立ち会い
現場での細かい調整や職方との連携などもありますが、ここでは鉄筋屋の本分ともいうべき上記作業についてのみ紹介します。
では以下より、それぞれの作業について詳しくみていきましょう。
施工図面の拾い出し(加工帳作成)
現場に乗り込む前段階の仕事として、鉄筋の配筋図から材料の拾い出しと加工帳の作成があります。
拾い出しとは、たとえば幅5m×高さ2.5m、厚さ300mmの壁を作るなら何mの鉄筋が何本ずつ必要になるか、コンクリートの被りを確保するためのブロックやドーナツはいくつくらい使うかなどの計算です。主に親方ポジションの職人が拾い出しを担当し、完成系を想像しながら計算して加工帳にまとめていきます。
この拾い出しの精度によって、現場でかかる手間は大きく変わります。「段取り8割」という言葉もあるように、人的作業をできるだけ少なくするために妥協できない部分です
鉄筋の加工
親方が出した加工帳を見ながら、子方の職人たちが鉄筋の長さと本数を整えて使う場所ごとにまとめる作業です。
このまとめ方ひとつとっても、鉄筋屋としてのセンスや経験則が重要となります。
- 乗り込む時期に現場がどこまでできているか
- 資材を置きたい場所を他の職人が使っている可能性は無いか
- 実際に現場で動いたときやりづらくないか
上記をはじめとして、考慮すべき要素は多くあります。初心者がまとめるのとベテランがまとめるのとでは、現場での効率が大きく異なるのです。
今は大体が加工場に直接プレカットで依頼しています。その際の番付を工夫するセンスが、鉄筋屋の経験が出る大きなところでしょう
現場での配筋
鉄筋屋の本分ともいうべき、配筋作業です。配筋図面を基に、現場で鉄筋を組み上げていきます。
基本的にコンクリートを使用する部分全てに配筋をおこなうのですが、使用する鉄筋の径や被り厚さ、配筋のスパンは場所ごとに異なります。
また設備の都合などの現場合わせになる部分も多々あるため、正確さだけでなく臨機応変さ、地頭の良さなどが重要です。
嵌合(かんごう)や結束などの作業を含めた、この配筋作業をいかに正確に速くできるかによって、鉄筋屋の腕前は評価されます。
・嵌合(かんごう)とは?
鉄筋同士をつなぎ合わせて、長さを確保する作業です。一般的には重ね継手と呼ばれる手法が主となります。
・結束とは?
「結束線」と呼ばれるステンレスの細い鉄線で、鉄筋同士を結ぶ作業です。結束線によって鉄筋を固定し、図面通りの形に仕上げます。電動の鉄筋結束機もありますが、手でやる職人さんがまだまだ多いです。
検査の立ち会い
鉄筋は最終的に、コンクリートのなかに隠れて見えなくなります。そのため鉄筋が組み上がった時点で、市区町村や認定検査機関からの「配筋検査」が実施され、鉄筋屋の職長はそれに立ち会わなければなりません。

配筋検査では、検査担当の職員が配筋図を見ながら、図面通りに鉄筋が組まれているかを目視で確認していきます。
もしそこで不備があれば後日に修正、ならびに写真の撮影と提出が求められるので、ゼネコン側は円滑な作業のためにも鉄筋屋の職長に同席してもらうのです。
ここで問題なしならば、晴れてコンクリート打設へと進んでいきます。
鉄筋屋のなり方
鉄筋屋になるために、特別な学歴や資格は必要ありません。たとえば美容師であれば定められた美容専門学校に通う必要がありますが、鉄筋屋になりたいからといって土木科や建築科に行く必要は無いです。
もちろん、図面を読めるようになったり建物の作り方を把握できたりなど、建設業に就くにあたってスタートダッシュにはなるので、鉄筋屋を志す人は建設系の学校に通えばその経験が強く活かせるでしょう。
結局のところ鉄筋屋になる方法は、募集をしている鉄筋屋さんの面接を受けるのみです。ごく稀に一般常識程度のテストを実施する場合もありますが、ほとんどの企業が慢性的に人手不足であるため、「健康な身体」と「働く意思」さえあれば基本的に問題ありません。
ただ後述しますが、鉄筋屋として大成するためには資格取得が必要不可欠ですので、後々は資格のための勉強が必要になると覚えておきましょう。
鉄筋屋の平均年収は約420万円
政府統計のポータルサイトである「e-Stat」によると、鉄筋屋の平均年収は約420万円です。[注1]
一般的な企業における年収と比較しても、金額としては大きく変わらないでしょう。
ただし、このデータは日雇いや正社員、また若手からベテラン問わず全てを平均した金額です。
とくに、建設業は未だに経験年数(年齢や腕前)=収入という意識が根深いため、ベテランと若手では収入面が大きく異なります。
また鉄筋屋を含め建設業の職人は、出面(出勤日数)の分だけ日当を貰う形式です。そのため、月に働いた日数によっても金額が変動します。
[注1]賃金構造基本統計調査|政府統計の総合窓口 e-Stat
鉄筋屋の日当・月収・年収一覧表
立場(熟練度) | 日給 | 月給 | 年収 |
---|---|---|---|
若手(1〜3年目) | 8,000円〜13,000円 | 20万円〜32万5千円 | 240万円〜390万円 |
中堅(3〜10年目) | 14,000円〜17,000円 | 35万円〜42万5千円 | 420万円〜510万円 |
熟練(10年以上) | 18,000円〜20,000円 | 45万円〜50万円 | 540万円〜600万円 |
親方 | 熟練と同様の金額+現場で出た黒字の一部 |
※毎月25日間出勤した場合
額面でみるとそこそこですが、鉄筋屋含め職人は自分で納税や保険料の支払いをおこないます。よって上記金額からさらに支出があるため、手取り金額としてはさらに少なくなるでしょう。

また職人の場合は、ひとつの現場が終わった時に黒字を配分する「配当」というものがあります。一般企業でいうところのボーナスですが、うまく進めれば一般企業のボーナス並の金額を年に3〜4回貰えることもあるので、それも収入に含められるでしょう。
鉄筋屋として高い給料を貰うためには…
鉄筋屋の給与額を決める際に、経験年数は確かに重要なファクターです。
ただ、経験年数を積む以外にも鉄筋屋の給料を上げる方法があります。それはごくごく単純に、仕事ができるようになること。

そのためには、鉄筋工という仕事について学び練度を増すことはもちろん、自分の価値を社会的に証明することが重要になります。
では、具体的に何をするべきかですが、目指すべきは「資格取得」と、「建設キャリアアップシステムに準じたスキルアップ」です。
鉄筋屋として取得するべき資格については、後述の「鉄筋屋に必要な資格3選」で紹介します。
ここでは建設キャリアアップシステムについて確認していきましょう。
鉄筋屋における建設キャリアアップシステムとは?
建設キャリアアップシステムとは、国土交通省が各建設業種に対して定めた能力評価基準のことです。
そもそもは各職人のデータを蓄積するためのものですが、自分の価値を社会的に推し量りたいときに参考にできます。
自分の市場価値を把握することで今のお給料が適正なのかが分かりますし、見合ってない場合は交渉材料にもできるでしょう。
資格取得も建設キャリアアップシステムも、社会的に自分の価値をアピールするために有用です。以下より鉄筋屋について定められた能力評価基準を、引用によって紹介します。
レベル1:初級技能者(見習いの技能者)
見習い工として鉄筋材料の基礎的な知識があり、道具・電動工具等の安全
な使い方を知り作業を補佐できる。また、上司の指示を受け、手順を確認
しながら作業を行うことができる。レベル2:中堅技能者(一人前の技能者)
見習い工を終了し、現場・加工場での経験が3年以上あり、鉄筋加工や組
立を工程や工事の流れに沿って正確にできる。また、加工帳に基づき正確
な鉄筋加工、組立てができ、一般的な速さ・精度がある。レベル3:職長として現場に従事できる技能者
職長として技能者を統率し鉄筋工事に関する一連の作業ができる。また、
加工帳を作成し、必要な資材の発注、技能者への鉄筋加工・組立の指示が
でき、各職方と段取りの調整ができるとともに、鉄筋加工や組立精度が平
均的な技能者より優れている。レベル4:高度なマネジメント能力を有する技能者(登録基幹技能者等)
現場の管理や工法、技術について元請管理者と協議し、指示・調整等を行
うことができる。

鉄筋屋が使う道具・工具7選
鉄筋屋が使う道具(工具)は、以下の7種類です。
- ハッカー
- スケール
- マーカー
- 折尺
- 番線カッター
- 鉄筋カッター
- 結束機
安全帯など、工事現場で働く職人全員が共通して必須の道具は省いています。
それぞれの用途を、以下に一覧表で紹介します。
名称 | 用途 |
---|---|
ハッカー | 鉄筋を結束するための結束線を縛るための道具。 鉄筋屋のハッカーは侍でいうところの刀。 もちろん刀ということは鞘(ハッカーケース)も必要。 |
スケール | 鉄筋の寸法やかぶり厚さ、径やピッチなど各所の長さを測るために必要。 |
マーカー | スラブやコンクリートなどに鉄筋を配筋する際、ピッチを記すために必要。 雨の日でも使える油性のものを使用。 |
折尺 | スケールよりも少し短めの、長さを測るための道具。 短い距離を測りつつ、比較的両手を空けておきたい時などに使用。 |
番線カッター | 鉄筋の束を縛っている番線を切るための道具。 コレが無いと搬出入の時とても不便。 |
鉄筋カッター | 鉄筋の長さを短くして調節するための道具。 切るだけでなく、曲げるためのベンダーが付いているものが好ましい。 |
結束機 | ハッカーを用いて手作業でおこなう結束作業が、電池式の機械でできる。 スラブの結束など、広い範囲の結束を淡々とおこなうときに重宝。 |
鉄筋屋に必要な資格3選
ここまでで解説したとおり、鉄筋屋になるために必要な資格等はありません。ただ、鉄筋屋として成功して良いお給料をもらうためには、資格を取得しておくべきです。
鉄筋屋として成功するために必要な資格は、以下の3種類です。
- 鉄筋施行技能士
- 玉掛け技能講習
- 登録基幹技能士
鉄筋施工技能士
鉄筋施工技能士は、鉄筋施工図の作成および組立作業について一定水準のレベルに達していると認められた場合に取得できる国家資格です。取得することで鉄筋屋としての高い技量をアピールすることができます。
鉄筋施工技能士を保有していることで、国の仕事など規模の大きい仕事を受けられるのです。1~3級に分かれていて級ごとにできる仕事の範囲が異なり、受験に必要な資格も違います。
1級:実務経験7年以上(2級合格者2年、3級合格者4年)
2級:実務経験2年以上or3級合格
3級:とくになし
また鉄筋工事業における一般建設業の許可を持つ事業者は、営業所に専任技術者を配置、ならびに工事現場に主任技術者を配置することが義務付けられています。
この場合、1級鉄筋施工技能士と2級鉄筋施工技能士でなければ、専任技術者や主任技術者にはなれません。
鉄筋屋として独立を考えているならば、確実に取得しておくべき資格です。
玉掛け技能講習
クレーンなどで資材を楊重する際、フックに荷をかけたり外したりする作業をおこなうためには、玉掛け技能講習を受講していなければいけません。
とくに鉄筋屋は材料を手揚げするなんてことをしないため、まず間違いなく鉄筋の搬出入に楊重作業が必須となります。玉掛け技能講習は作業員時代の早いうちから受講しておくことをおすすめします。
受講日数 | 受講時間 |
---|---|
3日間 | 19時間 |
登録基幹技能士
指定の工事団体の講習を受けることで、登録基幹技能士という資格が取得できます。登録基幹技能士を保有していることで施行方法の立案や、作業手順の指示・監督などが可能です。
鉄筋施工技能士と同じく公共工事に関わるために必要な資格なので、独立などを考えている人は将来を見越して取得しておくべきでしょう。
鉄筋屋は多くの建造物で欠かせない存在
平成31年に実施された総務省統計局の調査によると、日本国内の共同住宅(マンションなど)の約9割は、木造以外の「非木造」で建てられています。[注2]
上物だけでなく、木造住宅の基礎にも鉄筋は用いられているため、鉄筋屋は建設業において欠かせない重要な仕事であるといえるでしょう。
鉄筋屋という偉大な職業について学ぶにあたり、本記事が参考になると幸いです。