建設現場における鳶(とび)とは、足場を組んだり工事詰め所を設置したりする、建設工事の基盤を支える重要な職業です。
どんな建築物においても鳶の力は必要不可欠であり、高所を軽快に飛び回る動きから「現場の花形」ともいわれています。
他業種からも一目置かれて頼られる職種であるため、鳶のリーダー=現場にいる職人のリーダーと言っても過言ではありません。
建設業における鳶について、本記事で詳しく解説します。
建設業における鳶(とび)とは?
鳶(とび)とは、建設現場において高い場所の作業を専門とする職人のことです。
軽快な動きで高所を動き回る現場の花形とも言われる仕事で、「建設現場は鳶からはじまり鳶に終わる」という言葉があるほどの、建設業を代表する職人だといえます。
他の職人間でも鳶といえば中心的な存在であり、鳶の職長は職長会での進行役や現場保全のリーダーを任されることも多いです。
鳶のなり方
鳶になるためにはとくに資格も不要なので、健康的な身体さえあれば誰でもなることができます。
艶麗制限などもなく、労働する一般的な年齢(16歳)であれば始められます。
多くの工務店では入社試験も無いため、面談にて誠実な姿勢と熱意を伝えれば「とりあえず働いてみるか」と雇ってもらえることが多いです。
また、鳶は自分自身が肉体労働でありながらも、他の職人が効率よく仕事できるように考えながら資材を準備し組み上げるため、体力だけでなく創造力も必要とします。
そんな鳶の仕事内容について、次章で詳しくみていきましょう。
鳶(とび)の仕事内容・作業の流れ
鳶は大きく分けて「足場鳶」「鉄鋼鳶」「重量鳶」の3つに分類でき、それぞれ仕事内容や作業の流れが異なります。
ただ、他の職人が現場で作業するための足場や鉄骨を組み立て、重機を所定の位置に設置するという、現場作業を進行するための基盤作りという点は、どの鳶職人においても同様です。
高所の足場やタワークレーンなど、現場にて作業の進行や人の命に大きく関わる部分の作業を担っているため、強い責任感を必要とします。
以下より、それぞれの鳶ごとの仕事内容や、作業の流れについて具体的に解説します。
足場鳶の仕事内容と作業の流れ
まず足場鳶ですが、名前のとおり足場を組む鳶のことを指します。
ただ足場を組み立てるだけでなく、建設現場を確認した後に足場を組むための図面を作成し、必要とする材料を拾い出しして現場に搬入します。
隣の建物に当たる、足場材で作業ができなくなるといった不具合が無いよう、足場を組む前に色々な観点で確認する必要があるので、他の職種なども含めた現場作業一式に精通していなければいけません。
作業の流れとしては、ゼネコンや他業種とのスケジュール調整後に足場の組み立て作業がスタートし、不必要となった場所の足場を解体・撤去しながら作業を進めていきます。
まれに、開いた場所に足場を建ててあとからクレーンで吊って丸ごと設置するというケースもあるほど、現場にてどうしたら早く安全に済むかを検討して取り掛かる臨機応変さが求められます。

建設現場において他の職人が仕事をするために必要な足場を組み、解体することを専門とした鳶
鉄骨鳶の仕事内容と作業の流れ
鉄骨鳶は、鉄骨の扱いを専門とした鉄骨を組み上げる鳶の種類です。
鉄骨造の建物において、鉄骨とボルトで建造物の基盤となる骨組みを組み上げます。
こちらも工事に必要な資材や部材を拾い出して、必要な数量を搬入して組み立てていきます。
鉄骨造の建物では、クレーンと手作業にて柱や梁を繋いでいきます。そのまま落下防止の安全帯を設置し、水平ネットなどを張る作業まで全て鉄骨鳶の仕事内容に含まれています。
立体駐車場など、鉄骨造の建築物においてはとくに欠かせない職種です。

鉄骨の搬入や楊重、組み立てを専門とした鉄骨造の建物に欠かせない鳶
重量鳶の仕事内容と作業の流れ
重量鳶は、クレーンを使って50tから1,000tほどの重量物を運ぶことを専門とした鳶です。
空調設備などの大型機械を利用する現場に、機械を搬入して設置、場合によっては搬出することが重量鳶の主な仕事になります。
通常の鳶と異なり高所作業はほとんどなく、物資の運搬作業は機械でおこなうので、操縦の腕も必要となります。
作業としては単純で、運ぶ機材と場所を打ち合わせれば後は図面通り設置していくだけです。現地確認の際に、何か搬出入に支障をきたすものなどが無いかを確認します。

建設現場における大型の設備機器を搬入・設置・搬出することを専門とした鳶
鳶(とび)が使う道具9つ
- インパクト
- 番線カッター(クリッパー)
- フルハーネスの安全帯
- ラチェットレンチ
- スケール
- ハンマー
- モンキー
- 水平器
- 【補助】腰袋や工具の落下防止ワイヤー
鳶職の仕事は多岐にわたるため、必要な道具の種類も比較的多くあります。
上記はそのなかでも、必須ともいえるほど鳶がよく使う道具です。
それぞれについて、以下より用途とともに紹介します。
インパクトドライバー
ボルトやナットを緊結するのに使う電動工具です。
ラチェットでも代用できますが、今の時代はスピード感が求められるので必須だといえます。
とくに鉄骨鳶は鉄骨同士を緊結するのに欠かせないので、確実に所持しておきましょう。
番線カッター(クリッパー)
番線カッターはその名のとおり番線を切るために使う道具で、クリッパーとも言います。番線といえば鳶が足場を止めたり縛ったりするのに使う機会が多いものなので、こちらも間違いなく必需品だといえるでしょう。
よく使ううえに落としやすいので、後述する落下防止のワイヤーを付けておくことをおすすめします。
フルハーネスの安全帯
安全帯とは、高所作業において自分の腰の高さより上にある動かないものに引っ掛ける、墜落を防ぐための命綱のようなものです。
2019年2月から労働安全衛生法が改正されたため、5メートルを超える高さでの作業はフルハーネス型を身に着けることが原則義務化となりました。[注1]
また、常につけている状態でないといけないので、外れている状況ができないよう2丁掛けをしなければなりません。
とくに鳶職は高所での作業が多いので、使いやすく安全性の高いものを揃えておきましょう。
[注1]「安全帯の規格」を改正した新規格「墜落制止用器具の規格」を告示|厚生労働省
ラチェットレンチ
インパクトドライバーと同じくボルトやナットを締めたり緩めたりするためのもので、手動でガチャガチャと動かす道具です。
そのためガチャや、持ち手の方の尖った部分を指してシノと呼ばれることもあります。
またラチェットは鳶にとって、番線を縛るうえで欠かせない道具です。足場の固定や資材のまとめなど、職人のなかで番線を使う機会が最も多いのが鳶なので、ラチェットは必需品だといえます。
さまざまなサイズがありますが鳶は基本的に17と21の両口が基本です。
スケール
距離や長さを測る、金属製のメジャーのことです。
とび職の場合は足場をどのくらい流して大丈夫か、建物や隣地に干渉しないかなどを確認するために使います。
足場のサイズがあるため、基本的に5.5mあれば十分です。
雨などで錆びたり、伸ばしてる最中に折れ曲がったりしないよう、少し高いですがステンレス製のものをおすすめします。
ハンマー
筋交いが上手くはまらなかったり、アンチ(足場の踏板)が入らなかったりする際に、それを叩くためのハンマーも必要です。
恒常的に使うわけではないですが、足場材は使いまわしているため歪んでいることも多々あり、その際は腕前関係なく叩かないと入らない、もしくは外れないことがあります。
たまにしか使わないからと設備屋さんのような小さいハンマーを買うといざというとき不便で、逆に大工のように持ち手が木で両口のげんのうを使うと折れてしまうため、一般的な長さのスチール製ネイルハンマーが無難です。
モンキー
極まれに、多職種のものを少しバラして作業をおこなうケースもあります。
その場合、鳶は17と21のサイズしかナットやボルトを緩められないので、念のためモンキーレンチも持っておくとよいでしょう。
モンキーレンチであれば幅を調整できてどんな資材にも対応できるため、1本持っておいて損はないです。
水平器
足場の根元は敷板を敷いて、その上に長さが調節可能なジャッキという部材を入れてズレないように固定させます。
このジャッキの長さを調整して足場を水平にするのですが、その際に必要なのが水平器です。
見渡しの良い広い場所に足場を組む場合はレベルを使用することもありますが、狭い場所などは水平器で調整をおこなうため、持っておくべきだといえます。
【補助】腰袋や工具の落下防止ワイヤー
足場紐や番線クズなど、ちょっとした物を入れるのに腰袋もあるとよいでしょう。
また、ここまで紹介した工具や道具を落下防止ワイヤーで結んでおくことも重要です。
とくに鳶は高所作業が多いため、何かを落として直下の職人に当たって怪我をさせる危険性があります。
補助的な道具ですが、効率的かつ安全な作業をするためには持っておくべきです。
鳶(とび)に必要な7つの資格
- 足場の組み立て等作業主任者技能講習
- 玉掛け技能講習
- 建設物等の鉄骨組立て等作業主任者技能講習
- とび技能士
- 工事用エレベータ組立・解体作業指揮者安全教育
- クライミングクレーン組立・解体作業指揮者安全教育
- クレーン運転特別教育
鳶職が持っておくべき資格は、上記7つの資格です。
鳶職は高卒の年齢からすぐに働けるので、とくに資格が無くとも仕事に就くことができます。また工事現場での実務経験がないと受けられない資格も多いので、はじめのうちは取れない資格も多いです。
ただ、良いお給料をもらって後々親方を目指すのであれば、上記の資格取得は必須となっていきます。
とくに「とび技能士」は1人前の証で、1級を取得することが独立して親方になるための条件です。
以下よりそれぞれの資格について、詳しく解説します。
足場の組み立て等作業主任者技能講習
足場組立等作業主任者は、厚生労働省が認定する国家資格です。
吊り足場、張出し足場、高さ5メートル以上の足場の組み立てや解体には有資格者を1人配置することが法律で義務付けられています。高さが5m以上ある足場やつり足場などの組み立て・解体の作業をするとき、この資格所有者が配置されていないと作業ができません。
事故を未然に防ぐための大切な資格で、取得には足場の経験が3年以上必要になります。足場からの転落や墜落などの事故が多いことから2015年に改正され、建設業における死亡者の平均に減少傾向がみられるようになりました。[注2]
[注2]建設業における労働災害発生状況|建設業労働災害防止協会
玉掛け技能講習
玉掛け技能講習は、重量物をクレーンで吊り上げた時に落下しないように、ワイヤーロープで物資を固定する作業ができる資格です。
玉掛けとはクレーン等で荷を吊るときに、ワイヤーロープなどを吊り荷に掛ける作業のことを指します。(外すときは玉外しといいます)よって平たく言えば、楊重する物にワイヤーを引っ掛けることができるようになる資格です。
作業風景はパッと見て難しそうなものではありませんが、危険度が高く専門的な知識も必要であるため、このように免許制となっています。
足場材などを各所に段取るために必須の資格で、鳶職人ならば最初に取得を促されます。
建設物等の鉄骨組立て等作業主任者技能講習
建築物等の鉄骨の組み立て等作業主任者は、労働安全衛生法に定められた作業主任者で国家資格のひとつです。高さ5m以上の建造物において鉄骨の組み立て・解体をするときに、作業主任者の資格を持った者を配置することが法律で義務つけられています。
取得には鉄骨に関する作業の経験が3年以上必要です。また作業ができることはもちろん、作業主任者の場合は安全管理に気を付けながら他の作業員に指示をしていく役割もあります。目指す分野が足場鳶か鉄骨鳶かによって取得する優先順位が変わってくるでしょう。
とび技能士
とび技能士は、厚生労働省が認定する技能検定の1つです。とび技能士は1~3級まであり、資格を取得することで鳶職人としてのスキルを国によって保証されることになります。
鳶の仕事は、作業プロセスに合わせて足場を組み立て・撤去し、重量のある物資を搬入・搬出する作業がメインのため、作業現場で形として残ることがありません。しかし、鳶の熟練度の違いで、作業の安全や作業スピードが左右されるため、作るものは最終的に無形ながら、建設現場においては重要な職業といえます。
そのため、資格は個人的な判断でスキルレベルを図るのではなく、免許制度を設けることで建設業の安全やスキルの基準が設けられています。無資格でも鳶職人として仕事はできますが、任せられる仕事の幅が広がり、給料アップにもつながるのです。
工事用エレベータ組立・解体作業指揮者安全教育
マンションなど、階数が積み重なっていく建物の場合は道具や資材を手で持ってあげるのが困難になるため、ロングスパンエレベーターという工事用エレベーターが足場に付属して作られます。
そういった工事用のエレベーターを組み立て・解体は鳶の仕事です。そして作業する場合は作業指揮者を配置してその指揮の下に作業を実施しなければならないと、クレーン等安全規則第153条によって定められています。
5階建て以上の建物であれば基本的にロングスパンエレベーターが付くので、戸建て以外にも大きな現場に出入りするために取得しておくべき資格です。
クライミングクレーン組立・解体作業指揮者安全教育
工事現場にて立ち上がっているクレーンも、鳶の手によって組まれています。
そのため、タワークレーン(クライミングクレーン)を組み立て・解体するためのクライミングクレーン組立・解体作業指揮者安全教育も鳶が受講すべき資格です。
大きな資材などを搬入するためにタワークレーンは必須なので、それを問題なく組み上げられるように取得しておきましょう。
クレーン運転特別教育
前述したクレーンを、鳶自身が使用して資材を搬入することも多くあります。
クレーンはリモコンで運転して、その運転には資格が必要なのでこちらも取得しておきましょう。
このクレーン運転特別教育と玉掛け技能講習を両方とも取得しておくことで、搬入・搬出が問題なくおこなえるようになります。
鳶職人の日当から月収・年収を算出
鳶職人の給料は働いた日数×日当で決まるため、月収や年収を算出するためにはまず日当を明らかにしなければいけません。
厚生労働省の「令和元年賃金構造基本統計調査」によると、とび工の1年目の平均賃金(時給換算)は1,295円でした。5年目になると1,517円、20年目になると2,183円まで上がります。[注3]
おおよそ8時~18時の作業なので、そのうち休憩は2時間(0.5+1+0.5)としたとき労働時間は8時間です。元職人である筆者の経験と、厚生労働省の「令和2年就労条件総合調査」で判断しているため、所定労働時間は8時間で間違いないでしょう。[注4]
上記に則ったとき、1年目は1,295×8=10,360円/日、5年目なら1,517×8=12,136円、20年目だと17,464円/日という計算になります。

ただ、あくまで日当であるため18時を超えて働いていたとしても残業代などが支払われることはまずありません。筆者が職人をしていたころ、少なくとも筆者の周囲には残業代を支払うような企業はありませんでした。
逆にお昼上がりなどでは日当も半分になるため、お給料が変動しやすいという面もあります。
鳶職人の日当を基に月給を算出
では前章で算出した日当を基に、月給と年収を計算していきましょう。
どんな月でも23日働いたと考えたとき、鳶職人の月収と年収は以下表の通りです。
1年目 | 5年目~ | 20年目~ | |
---|---|---|---|
月給 | 238,280円 | 279,128円 | 401,672円 |
年収 | 2,859,360円 | 3,349,536円 | 4,820,064円 |

鳶としてお給料を上げるためには何をするべき?
鳶として良いお給料をもらいたいなら、仕事を覚えることはもちろん資格の取得や指示者としての経験を積むことが重要です。
また具体的には、国土交通省が定める建設キャリアアップシステムの基準に沿って技能を習得していくことで、お給料のアップが見込めます。

以下より引用として、鳶工の建設キャリアアップシステムの基準を記載します。
レベル1:初級技能者(見習いの技能者)
とび工事についての基礎知識を有するととともに、工具・用具等の安全な使用方法を身に付け、上司の指示・指導を受けながら作業の補佐ができる。レベル2:中堅技能者(一人前の技能者)
とび工事業の現場での経験が3年以上あり、工程や工事の流れに沿って作業を正確に進めることができる。レベル3:職長として現場に従事できる技能者
技能者を統率し、とび工事業に関する一連の作業ができる。
また、現場の状況を把握し、必要な資材の発注、技能者への指示ができ、各職方と段取りの調整ができる職長等であって、とび工事の精度が平均的な技能者より優れた現場管理を行うことができる。レベル4:高度なマネジメント能力を有する技能者(登録基幹技能者等)
登録基幹技能者として全体工程の把握・管理を行い、工法や手順等について元請事業者と協議し、他職種との調整を行うことができる。
上記の基準をクリアして、鳶工として良いお給料が貰えるように努めましょう。
鳶とは全ての職人のリーダーとなる建設現場の花形!
誰よりも高所で作業をして、追随する職人たちの作業環境を整える仕事である鳶職は、全ての職人のリーダーであり現場の花形です。
危険作業を安全に収められるのはプロの職人である証なので、過酷な現場を笑顔で乗り切れる鳶さんは尊敬に値します。
鳶職に興味がある方に、本記事が参考になると幸いです。