一昔前は飲み物のパッケージといえば瓶や缶が主流でしたが、近年ではペットボトルが広く普及し、飲料容器全体のおよそ75%を占めています。[注1]
ただ一方で、ビールやチューハイなどのお酒に関しては瓶や缶がまだまだ多く、ペットボトルに入ったものはほとんどありません。
瓶や缶と異なり蓋を開け閉めできるペットボトルは炭酸を含むビールや発泡酒と相性が良さそうですが、なぜお酒のペットボトルは普及しないのでしょうか。
本記事ではお酒のペットボトルが普及しない理由や、ペットボトルでお酒を販売するメリットなどについて詳しく解説します。
[注1]一般社団法人 全国清涼飲料連合会|2019年容器別シェア(生産量ベース)
目次
【普及しない理由】ペットボトルのお酒は品質が劣化しやすい
お酒のペットボトルがなかなか普及しない最大の理由は、品質の劣化が加速するからです。
ペットボトルは一見したところ密閉容器のようにみえるでしょう。ですが実際のところ、ペットボトルの材料となるPET(ポリエチレンテレフタレート)には目には見えないほどの極小の穴があいています。
中身が漏れてしまうほどの大きさではないものの、酸素や二酸化炭素などの気体分子は難なくすり抜ける程度の穴です。
そのような気体透過性の高い容器には、長期間保存に向いていなかったり、内容物が酸化してしまったりなどの短所があります。
とくにビールは酸素に触れると香味が著しく劣化してしまうため、ペットボトルで販売することはできません。また光による影響も受けやすいため、無色透明のペットボトルに入れての販売は難しいとされています。
ビールのペットボトル販売は実現不可能ではない
ペットボトル入りビールは日本でこそ見かけませんが、実は海外では普通に販売されています。
たとえばビール大国でありアルコール消費量も世界的にみて多いドイツでは、500mlペットボトルのお酒が店頭で販売されています
またロシアでも、ペットボトルに任意の量のビールを入れて販売する量り売りをしています。
[注2]グリーンエージェント株式会社|生ビール量り売り専用充填機
ペットボトルでお酒を販売するメリット
お酒をペットボトルで販売することには、以下3つのメリットが考えられます。
- 持ち運んで小分けにして飲める
- 飲んだあとでも保存がしやすい
- 種類によってはシェイクしてカクテルにできる
ペットボトルが多く普及していることにはしっかりとした利点があり、それはお酒とも親和性が高いのです。
それぞれについて詳しく解説します。
持ち運んで小分けにして飲める
まずペットボトル自体がフタを開け閉めできるため、お酒においても小分けにしてゆっくり飲むことができます。
缶や瓶だと一度開けたら閉められないため、ちょっとした焦燥感をもってペースを上げて飲みきる人も多いでしょう。
その際ペットボトルであれば無理して急いで飲みきる必要も無いため、酔いつぶれる人の割合も少なくなるかもしれません。
飲んだあとでも保存がしやすい
宅内で飲み会を開いてそれを片付ける時、少し中身が残っている缶などは中身を飲みきらずにそのまま捨ててしまうことはありませんか?
そのような際でもお酒がペットボトルに入っていれば、蓋を閉めて冷蔵庫で保存しなおすことができます。
とくにお酒は一般的な飲料よりも高額であるため、瓶や缶よりも繰り返しの保存がしやすいというのは、結果として酒代の節約にもつながる可能性が高いです。
種類によってはシェイクしてカクテルにできる
お酒がペットボトルで販売されるようになれば、誰でもバーテンダーよろしくシェイクしてカクテルが作れるかもしれません。
現在でも容器に移し変えればできますが、ちょっとした出先などで色々なお酒のペットボトルを買って、組み合わせを変えて作って飲むとか楽しそうですよね。
瓶や缶のお酒ではできない、ペットボトルに入って売られているお酒だからこそできる楽しみ方です。
ペットボトルでお酒を販売するデメリット
前章に対し、ペットボトルのお酒を販売することには以下3つのデメリットが考えられます。
- 保存しやすくダラダラ長く飲んでしまう
- 炭酸が抜けるのが缶よりも早い
- リサイクル面で支障をきたす恐れがある
それぞれについて、詳しくみていきましょう。
保存しやすくダラダラ長く飲んでしまう
ペットボトルは保存がしやすいと先述しましたが、保存ができるせいでダラダラと長く飲んでしまうケースが考えられます。
瓶や缶であれば「飲みきってこれで終わりにしよう」というメリハリが効きますが、ペットボトルの場合は「また少ししたら飲もう」と考えて、止めるべきところで止められない危険があるのです。
保存がしやすいというのはメリットであるはずなのですが、ことお酒の場合はデメリットにもなります。
炭酸が抜けるのが缶よりも早い
炭酸は、水に二酸化炭素が溶けることで生じます。炭酸を長持ちさせるためには、できるだけ外気に触れさせないことが大切です。
そして先述したとおり、ペットボトルの原料であるポリエチレンテレフタレートは気体透過性が高いため、実は缶よりも炭酸が早く抜けてしまいます。
美味しさを求めるのであれば、缶や瓶に入ったお酒が最適だといえます。
リサイクル面で支障をきたす恐れがある
お酒をペットボトルで販売することで、現状のリサイクルシステムに支障をきたす恐れがあります。
詳しくは後述しますが、実は以前日本の企業がビール用のペットボトルを開発する計画を立てていました。
しかしそこに、複数の環境保護団体からストップがかかります。
理由としては、開発しようとしていたビール用のペットボトルが、普及している従来の飲料水用のペットボトルと異なるコーティングを必要としていたためです。
その特殊なコーティングにより、ペットボトルのリサイクルシステムに悪影響を及ぼす危険があるとの指摘を受け、やむなくペットボトル入りビールの販売を断念することになりました。
日本国内で現在もなお瓶や缶がお酒の容器として主流であるのは、そういったリサイクル面での問題も関係しているのです。
日本でのお酒のペットボトル販売における実情
先述しましたが、ペットボトル入りのビールについて、日本で今まで全く検討されなかったわけではありません。
実際に、大手酒造メーカーであるアサヒビールが2004年、ガスバリアー性と遮光性を高めた「ビール用ペットボトル」を開発して商品化する予定でした。
先述したリサイクル問題によって頓挫してしまうのですが、日本でもペットボトル入りビールを製造する技術自体は確立されているのです。
また海外と比較してペットボトル入りビールの普及が進まない日本ですが、近年新たな動きもあります。
それは、アサヒビールに並ぶ大手酒造メーカーである「キリン」が2018年にスタートした、「タップ・マルシェ」というサービスです。
タップ・マルシェはさまざまなクラフトブルワリーのビールを楽しめるサービスで、ビールの販売に独自開発した3Lペットボトルを採用しています。
画像引用:タップ・マルシェ
ペットボトルそのものに酸化劣化を防ぐガスバリアー機能が用いられており、普及しない最大の原因であった品質の劣化を克服しています。
また、光を遮断するフィルムをボトル表面に装着することで、光によるビールの品質低下も抑えられます。
こうした最新技術を採用したペットボトルは「ダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングペットボトル」と呼ばれており、通常のペットボトルと同じようにリサイクルすることが可能です。
タップ・マルシェによって、お酒をペットボトルで販売できないとされていた理由の大部分を解消したといえます。
ペットボトルのお酒を熱望するネット上の声
うっは。荷物おも。お酒買えないですスミマセン。梅酒なんでペットボトルで売ってないの??
— ℂ (@unycom) December 24, 2011
明日休みだしお酒を飲んでみるかと思ったけどペットボトルで売ってないの
— ヒカリ (@hi_cinccino) March 29, 2013
サンガリアのペットボトルのお酒、売ってないなぁ
— どりすこる(un_official) (@do_you_love_me) November 10, 2015
ズル休みをしたことは無いですが、ペットボトルにお酒を入れて出社したことはあります。
— お酒ならKURAND (@KURAND_INFO) September 27, 2022
なんでペットボトルのお酒って売ってないの?
— ゆりか (@yurika026) February 12, 2018
お酒の容器別の魅力
お酒のペットボトルは多くないですが、そもそもペットボトル以外の容器で沢山流通しているのは何故でしょうか?
もちろんコストや品質の問題もあるはずですが、それぞれの容器ごとにメリットや魅力が存在していることも確かなはず。
ここでは、お酒の容器別の魅力について解説します。
瓶でお酒を売る魅力
ガラス瓶は、お酒の容器として長い歴史を持ち、高級感と伝統を感じさせます。透明な瓶を通して、お酒の色や澄み具合を楽しむことができるのが大きな魅力です。
特にワインやウイスキーなど、熟成や色合いが重要な酒類には欠かせません。また、ガラスは化学的に安定しているため、長期保存に適しており、お酒の風味を損なわずに保つことができます。リサイクル性も高く、環境にやさしい面もあります。
さらに、瓶の形状や装飾によって、ブランドの個性を表現しやすく、コレクションの対象にもなります。開封後も再密閉が可能なものが多いため、少しずつ楽しみたい場合に便利です。触れた時の冷たさや重量感も、お酒を楽しむ体験の一部となっています。
缶でお酒を売る魅力
アルミ缶は、軽量で持ち運びやすいのが最大の魅力です。ピクニックやアウトドアイベントなど、外での飲酒に適しています。
また、急速に冷やすことができ、すぐに冷たいお酒を楽しめます。遮光性が高いため、光による品質劣化を防ぎ、お酒の鮮度を保つのに優れています。開封時の「プシュッ」という音は、爽快感を演出し、飲む楽しみを高めます。缶は積み重ねやすく、収納効率が良いため、小売店や家庭での保管に便利です。
さらにリサイクル率が非常に高く、環境負荷が少ないのも特徴です。近年では、デザイン性の高い缶も増えており、コレクターの注目を集めています。くわえてワンウェイ容器であるため、返却の手間がなく、使い捨てが可能な点も便利さの一つです。
紙容器でお酒を売る魅力
紙パック容器は、日本酒特有の容器として独特の魅力を持っています。まず、軽量であることが大きな利点です。200ml〜1Lの様々なサイズがあり、持ち運びや保管が非常に簡単です。これは、お花見や野外イベントなど、屋外での飲酒時に特に便利です。
また、遮光性が高いため、日本酒の品質劣化を防ぎます。日本酒は光に敏感なため、この特性は重要です。さらに、酸素の侵入を防ぐ構造になっているものも多く、開封後も比較的長期間鮮度を保つことができます。
価格面でも魅力があります。瓶に比べて製造コストが低いため、比較的リーズナブルな価格で質の良い日本酒を楽しむことができます。これは、日本酒を気軽に試してみたい人や、普段使いの酒として愛用する人にとって大きなメリットです。
環境面では、紙パックは燃えるゴミとして処理できるため、分別が簡単です。また、近年はリサイクル可能な素材を使用した紙パックも増えており、環境への配慮も進んでいます。
開け方も簡単で、注ぎやすいのも特徴です。キャップ式のものや、切り取って注ぐタイプなど、使いやすさに配慮されたデザインが多いです。
最後に、日本の伝統的な和柄や季節感のあるデザインが施されていることも多く、視覚的な楽しみも提供しています。これらのデザインは、贈答品としても人気があり、手軽なギフトとしても重宝されています。
コンビニに並ぶ日も遠くない?お酒のペットボトル化に今後も期待大!
結論として、光や気体を通しやすいペットボトルはお酒…とくにビールを入れることに適していません。
ただ文中で紹介したように近年では、品質劣化を防げるペットボトルが開発されています。
そのためペットボトル入りのお酒を販売する準備は整っており、日本国内でペットボトル入りのビールを購入できる日はそう遠くないかもしれません。
ただ、日本ではペットボトル=清涼飲料水のイメージが強いため、未成年が謝って手に取る危険性なども考えられます。
普及にはまだまだ課題がありますが、今後それらをクリアしていくことでペットボトルのお酒も解禁され、お酒の楽しみ方もさらに広がるでしょう。
「アルコールのペットボトル販売が開始!」
そんなニュースが流れる日が来るのを楽しみにしつつ、本稿を締めくくりたいと思います。